歯のコラム
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神経を抜きたくない。できる?できない?
2022.11.03
こんにちは。
複数のサイトで歯科のお悩み相談の回答をしているのですが、割と多くご相談いただき、かつ回答が難しいものに「神経を抜きたくない」というものがあります。当医院でも「神経を抜きたくない」というお声がたまにあり、お気持ちはよくわかるのですが、なかなか難しいといえます。
今回は、神経を抜くのはどのような場合か、抜いた後はどのような治療を行うのかについてご説明します。
虫歯の分類
虫歯は症状によって以下のように分類されています。
C0:極めて初期の虫歯で、白く色が変わっている/穴や症状はなし
C1:歯の一番外側のエナメル質に小さい穴が開いている状態
C2:エナメル質の内側の象牙質まで穴が開いている状態/軽い痛みやしみがある
C3:歯髄まで虫歯が到達している/何もしなくても強い痛みがある
C4:歯に大きい穴や根本だけ残っている/神経が死んでしまい痛みはない
ネットで調べると、絵や写真で紹介されているものを見ることができるでしょう。
神経を抜くのはC3の状態で、虫歯としては抜歯の手前で、進行性があります。決して初期の虫歯ではありません。
神経を抜く判断は?
何もしない状態で強い痛みが出ている場合、神経を抜く必要があります。
もし神経を抜きたくないというご要望があった場合、当然ながら歯科医師は無理やり神経を抜くことはできません。痛み止めを飲んで過ごすことになるか、ひたすら我慢するかになるでしょう。
痛みがなくなったから治ったのではないか?
神経はとても繊細な細胞です。痛みが出ているのに我慢していると、自然に神経は死んでしまいます。
顎の骨から歯の内部に繋がる神経が死んでしまうと、痛みは徐々になくなっていきます。このときに「神経を抜かなくてよかった。自然に治ったんだ!」と考える方がいます。
しかし、歯の中に死んだ神経の残骸が残っているので、実はとても危険な状態になっています。「神経が死んで痛みがないなら、神経を抜いた状態と同じじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、まったく違います。
神経を抜いた歯はかぶせものが必要
歯は、神経が残っている状態ではしなやかな硬さがあります。
一方で、神経を抜いたり神経が死んでしまった歯は、硬さはありますが脆さもあります。そのため、神経を抜いた歯は基本的に周囲をすべて覆うタイプのかぶせものを装着する必要があります(セラミックの場合、歯を残した状態で大きめのつめものでもよい場合があります)。
かぶせものをしないでそのままにしていると、噛み合う反対側の歯の力がかかり、歯が欠けたり割れてしまうことがあります。表面の小さい部分だけなら欠けても治療することができますが、歯の根のほうまで割れてしまうと抜歯することになってしまいます。
根管治療は歯の寿命を延ばす大切な治療
「神経を抜いた歯」と「神経が死んでしまった歯」の違いは、歯の根の部分に死んだ神経の残骸があるかないかです。
死んだ神経は、細菌によって炎症を起こす原因となります。神経が死んでいるので痛みは感じませんが、歯の根の周辺に炎症を起こし膿が出ます。
しかし、膿を出す出口がないので、周辺組織に痛みが生じ、歯茎に水ぶくれのような膿だまりを作ります。歯の根が埋まっている顎の骨に炎症が起きると、骨はどんどん溶けて、なくなってしまいます。歯を支えている土台の骨がなくなってしまうので、歯はぐらぐらと揺れ、支えることができなくなるので抜歯が必要になります。
いわゆる「神経の治療」は、こういったことにならないように、神経を抜き、神経が通っていた管の部分の洗浄と殺菌を行います。できるだけ無菌状態にして根管充填材という材料を詰め、外部から細菌が入らないようにするのです。
ここまで行ったうえで、歯の形を整え、型を取り、かぶせものを制作して装着します。
かぶせものはどれがいい?
かぶせもののには、さまざまな種類があります。
保険診療のかぶせものは以下のとおりです。
・銀歯
・最近保険適用となったCADCAM冠やチタン冠
自由診療で行う主なかぶせものは以下のとおりです。
・セラミック
・ジルコニア
・ゴールド
・ハイブリッドセラミック
・プラチナ
どの素材が良いかは症例にもよります。
基本的には自由治療のセラミックやゴールドをおすすめしていますが、場合によってはジルコニアが良いこともあります。保険診療でお考えの場合は、丈夫で安価な銀歯がおすすめです。
かぶせものについては、別のコラムで詳しくお話いたします。
神経を抜く必要があるといわれたら
神経を抜く必要があるという診断が出た場合、納得できずにセカンドオピニオンを受け、結果的に神経を抜かない選択をされる方もいらっしゃるでしょう。
すべての歯科医師は、歯科医師国家試験を取得するために歯学部で6年の勉強を経て、1年以上の臨床研修を修了した後に診療にあたります。歯学部の講義内容は近い年代では同じですが、臨床研修では歯科医師ごとに経験や治療方法は異なります。
歯科医師によって診断の基準が違うのはこのためですが、結果的に「歯科医師によって診断が違い、どうしたらいいかわからない」と思われる方も少なくないのではないでしょうか。
例えば、さまざまな要因から神経を残す治療をしても近い将来神経を抜く治療が必要だと考え、神経を抜く治療を提案したA先生と、教科書通りの診察を行い、神経を残す治療を提案したB先生がいたとします。どちらも間違ってはおらず、患者さんがどちらの意見に納得し選択するかの問題といえますが、セカンドオピニオンを受けた歯科医師のほうが意見を言いやすい状況であることが多いでしょう。
A歯科医院に行ったら「神経を抜く処置が必要」と言われ、納得できないのでB歯科医院に行くと「神経を残せる」と言われた。この場合「A歯科医院は誤診だ」と結論づけるのは早計と言えるでしょう。治療時間は限られていて、長時間の説明ができないことも多いです。また、もしC歯科医院やD歯科医院に行ったら、A歯科医院同様に神経を抜く処置が必要だと言われるかもしれません。
自分の希望通りの診断を言ってくれる歯科医院が必ずしも良い医院とは限りません。神経を抜く・抜かないというのは、患者さんの気持ちの問題ではなく「学術的に正しいかどうか」に尽きます。気持ちの整理がつくまでの間、応急処置的な治療をすることはあるかもしれませんが、根本的な問題を解決しなければ結果的に抜歯のリスクは上がってしまいます。
神経を抜くか抜かないかというC3の虫歯で悩むのであれば、定期的に検診を受け、C0〜C1といった初期の虫歯を早期に発見し処置するように努めましょう。C3の状態は、決して初期の虫歯ではありません。たとえ神経を抜いても、長期的に使えるように前向きに考えてはいかがでしょうか?
歯の痛みは歯からの最後のシグナルです。乳歯が抜けてから永久歯に生え変わり、長い間頑張ってきた歯が最後に「痛み」という合図を送っている状態です。この合図を無視せず、しっかりと治療して、かぶせものを装着して長く使えるようにしていきましょう。
他院で「神経を抜く必要がある」と言われて悩まれている方は、診察させていただきますので、いつでもご相談ください。
ご予約は、お電話とネットから受け付けております。