歯のコラム
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インフルエンザと歯医者の関係は?
2024.12.19
口腔ケアが健康のカギ!インフルエンザと口の中の深い関係
こんにちは。これを読んでいる皆さんはお口の健康にとても興味がある方だと思います。歯みがきやフロス、歯間ブラシ、洗口液などなどご自身での日々のケアがちゃんとできているか、これからちゃんとやっていこうと思っているのだと思います。でも毎日忙しいと歯磨きをつい手を抜いてしまったり忘れてしまったりしてもしかたありません。でも実はこの口の中のケアが、インフルエンザやウイルス感染から私たちを守る“最前線”になると聞いたらどうでしょうか?日々のケアに一段と身が入るのではないかと思います。患者さんの常識と歯科医院で働いている人の常識が違うのは当たり前です。でも私もテレビや動画を見ていると一流シェフが普段お店以外で食べているものや漁師さんの賄いがおいしそうに感じてしまいます。その道の専門家が日々どんなことをしているかというのはその分野に関わっていない人からしたら(私も含めて)興味深いことではないかなと思いました。今日はそのあまり知られていない口腔ケアと全身の健康との深い関係をお話しします。私達の歯科医院では教科書としてスタッフに配っている本があります。落合邦康先生の「人は口から老い口で逝く」という本です。こちらの内容を参考にさせていただき今日はお伝えしたいと思います。
口の中の細菌がウイルス感染を助ける?
口の中には様々な細菌がいます。虫歯の原因となる細菌、歯周病の原因となる細菌、日和見菌と呼ばれる身体の状態によってどちらにも転んでしまう細菌などが歯科分野ではよく話題になります。その口の中にいる細菌が、インフルエンザウイルスの感染や増殖を手助けしてしまうことがあるということが研究によってわかっています。その筆頭格が、歯周病菌として知られるジンジバリス菌です。この菌が作り出す酵素「ジンジパイン」は、ウイルスの表面にある「HAタンパク質」を切断し、ウイルスが私たちの細胞に強く結びつくのを助ける性質があります。これによりウイルスが体内に侵入しやすくなりどんどん増殖してしまうのです。
またインフルエンザのウイルスにはNA酵素という酵素があります。これは簡単に言えば通常細胞と結びついているウイルスを細胞から切り離して新たな細胞に感染するのを助ける働きをしています。そしてプラーク(歯垢)の中にもインフルエンザウイルスと同様にNA酵素を持っている細菌も潜んでいます。インフルエンザの治療薬にはこのNA酵素の働きを阻害する作用があるものがあります。しかしその作用はインフルエンザウイルスのNA酵素には作用しますが口の中にいる細菌のNA酵素には作用しません。結果としてインフルエンザの治療薬の効果が下がってしまいます。あまり想像できないかもしれませんが、口の中を清潔に保たないと、ウイルス感染が広がりやすくなる環境を作ってしまうということです。これはインフルエンザだけではなくコロナウイルスについても同様です。
プラークがもたらすリスクとは?
先ほどプラークの中にいる細菌がNA酵素を作るというお話をしました。そしてこの細菌は歯周病の原因細菌でもあります。そのため特に歯周病を抱える人は注意が必要です。歯周病はウイルス感染のリスクを高め、重症化につながる可能性があります。例えば、スペイン風邪(1918年)の大流行時には、歯周病患者の感染率や死亡率が高かったという報告もあります。これらの事実から、口腔環境を整えることが感染症予防の重要な要素であることがわかります。歯周病は日本人の多くがかかっている病気です。その調査方法は色々なデータがあるので一概には言えませんが、厚生労働省のe-ヘルスネットにある調査結果では歯周ポケット4mm以上の割合が以下の通りになっています。
- 15-24歳 18%
- 25-34歳 32%
- 35-44歳 42%
- 45-54歳 50%
- 55-64歳 53%
- 65-74歳 58%
- 75歳以上 51%
かなりの割合で歯周病と言えるのではないでしょうか。歯周病は身体の免疫力と深い関係があります。簡単すぎるほど簡単に説明するとしたら、免疫力が高ければ歯周病になりにくく低くなれば歯周病になりやすくなります。35-44歳で大きく数値が上昇しているのに注目してください。身体の免疫機能は40代で衰え始めます。そのため40代以降での歯周病が増えるというわけですね。ちなみに75歳以上でまた数値が下がっていますがこれは歯が無くなると原因の細菌も減るため歯周病が治るという笑い話のような状況から起きています。
75歳の平均の歯の本数は15本。歯が1本も無い無歯顎の方も増えますが、思ったより歯の本数が少ないと思った方も多いかもしれません。おやしらずを入れると32本。おやしらずが無い方や抜いた方では28本の歯があります。そこから13~17本抜けてしまうのは多いと思いませんか?
口腔ケアの効果を証明する研究
「歯磨きをしっかりすれば本当に効果があるの?」と思う方もいるかもしれませんが、科学的にもその効果は証明されています。最近の研究では、介護施設における口腔ケアの実施が、インフルエンザの発症率を大きく低下させたことが明らかになっています。
例えば、ある介護施設での実験では、口腔ケアを受けたグループではインフルエンザ発症率が1%にとどまったのに対し、口腔ケアを行わなかったグループでは約10%に達しました。口腔ケアが感染症予防に効果的であることを示しています。
インフルエンザ以外のウイルスについてはどんな影響があるの?
口腔ケアの効果はインフルエンザだけにとどまりません。例えば、HIV(エイズウイルス)やエプスタイン・バーウイルス(EBV)といった感染症にも影響を与えることがわかっています。
HIVとの関係: 歯周病菌が作り出す酪酸という物質が、HIVの潜伏状態を解除し、ウイルスの増殖を促進します。つまり、歯周病を放置しているとHIVの活動が活発になり、エイズ発症リスクが高まる可能性があります。
エプスタイン・バーウイルス(EBV)との関係: EBVは、口腔内の唾液腺やリンパ球に潜むウイルスで、歯周病の炎症によって増殖することが確認されています。このウイルスはがんや慢性疾患の原因になることがあり、歯周病治療が全身の健康に影響を与えると考えられています。
思い立ったが吉日 今日から歯のケアに気を付けましょう
「それじゃあ、どうすればいいの?」という疑問が出てきますよね。実は口腔ケアはとてもシンプルなことの積み重ねが大切です。
毎日の歯みがきを丁寧に 毎食後歯を磨きましょう。その際にはフッ素濃度1450ppmの歯みがきペーストを使いましょう。歯みがき後は2時間は飲食を控えましょう。
フロスや歯間ブラシを使う 歯ブラシでは届かない歯と歯の間の汚れをフロスや歯間ブラシで取り除きましょう。
定期的に歯科検診を受ける 歯科医院でのプロフェッショナルケアは、ご自身のケアでは取れない歯周病の原因細菌の除去に非常に有効です。
唾液をしっかり出す 唾液には抗菌作用があります。水分補給やガムを噛むことで唾液分泌を促しましょう。
食生活にも気をつける 栄養バランスの取れた食事を心がけることで、口腔内の免疫力を高めることができます。
そしてこれらのご相談は歯科医院で歯科医師や歯科衛生士と行うのがおすすめです。ネットの便利な世の中ですが発信されている情報は大多数に向けた情報です。これも非常に便利で大切なことではあるのですが、口の中の状況は個人差があります。個別の指導や相談がとても大切です。
一歩進んだセルフケアのために
当院で行っている歯周病の検査があります。これは自費治療となるのですが口の中の細菌を検出して歯周病のリスクを調べる検査です。歯周病は細菌の種類によって口の中でどんな悪さをしているのかが違うため種類を調べるというのは非常に予防に有効です。
高性能歯ブラシと歯間ブラシの処方も行っています。これは一般的なものと比較すると少し値段が高い歯ブラシと歯間ブラシです。歯ブラシは毛の本数が多いという特徴があります。歯間ブラシは他の歯間ブラシと違う特徴があります。歯と歯の間隔は人それぞれ違いますが、一人の人でも全ての歯の間隔が同じではありません。その間隔を測定して適切な太さの歯間ブラシを処方しています。この歯間ブラシの処方を行っている歯科医院はあまり多くないのではないかと思います。処方をするにあたってセミナーを受けているのですが海外のメーカーなので外国から講師が年に一回来るのですが非常に人気ですぐにいっぱいになってしまうほどです。歯ブラシや歯間ブラシの選び方は人それぞれですし、歯科医院によっても、歯科医師や歯科衛生士によっても違うことがあります。この歯間ブラシは選び方に迷っている方にはとてもおすすめです。
その他にもたくさんの歯ブラシを揃えています。歯周病用、インプラント用など色々な種類がありますのでお気軽にご相談ください。
インフルエンザの予防のために
インフルエンザの予防はワクチンが有効なのはもちろんですが、歯科の分野からも取り組めることがあるということもわかっていただけたのではと思います。歯科医院で働いていると感じるのですが、あまりインフルエンザになった記憶がありません。もちろん職場が屋内にあるということや、1日に会う人の数がそんなに多くないということもあるかもしれません。働いているスタッフはワクチンを打っていることもありますが、歯科医院内でインフルエンザが流行ったりしたこともあまり記憶にありません。これはエビデンスが見つからなかったので詳しいお話ができないのですが、歯科業界の私の仲間内では歯科で働いている人はインフルエンザにかかりにくいかもしれないという感覚がありました。コロナウイルスが大流行している時にニュースで「歯科医院はなぜコロナウイルスのクラスター感染がおきないのか?」というものを見たこともあります。唾液が飛び散っている職場なのに不思議ではありますが、口腔環境に興味があって常にきれいにしている人が多いからかもしれません。
セルフケアと歯科医院でのケアの二人三脚で取り組もう
歯科医院での検査はあくまでその時の状態を確認することに過ぎません。3か月間隔の検診であればその他の89日間はセルフケアです。どのようにセルフケアを行うべきかを定期的に確認し、日々実行していくという生涯をかけて取り組むことなのです。どちらかだけではやはり健康の維持は難しいでしょう。事実そういった論文を私は見たことがありません。口の健康は身体の健康。身体の健康は健康なまま生涯を終えるためにとても大切な事です。気になることがある方はぜひ一度ご相談ください。