歯のコラム
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根本的な治療が必要な理由
2024.08.05
その場しのぎの治療で本当に満足できるのか
開業する前から歯科の治療に関するセミナーに参加することは多かったのですが、中央区京橋に開業してからより参加することが多くなってきました。ここ数年でよく参加しているセミナーは何かといいますと全体的な治療を行う為のセミナーです。総合歯科治療、包括歯科治療、という治療になるのですがとても奥が深く毎回とても勉強になっています。東京で行われるセミナーが中心ですので参加されている他院の歯科医師も東京の方が多く、懇親会や個人的なお付き合いで交流も深くなっています。銀座の先生、日本橋の先生、赤坂の先生、広尾の先生、浅草の先生、場所が違えば患者さんも違うと思う方もいらっしゃるかもしれません。多少の差はありますが、治療の内容に偏りはあまりない様に思います。色々な先生の症例発表を聞いたり、悩みを聞いたりするとみんな同じことで苦労しているのだなと思いますし、励みにもなります。
さて、根本的な治療を行うに当たってはこのようなセミナーへの参加が非常に勉強になりますし、ある程度必要だと思っているのですがそれはかみ合わせ治療が非常に難しい分野だということが理由としてあります。
例えば奥歯が1本虫歯になったとします。神経は残せるのか、残せる場合はレジンで詰めるのか、銀歯にするのか、セラミックにするのか、ゴールドにするのか、といった治療が候補として挙げられます。保険診療のみという制限のなかであればレジンか銀歯かといった治療になります。これは歯科大学で勉強する内容となっていますので、国家試験に合格した歯科医師は全員行うことができます。セラミックやゴールドの治療は保険診療対象外ですので別途セミナーに参加したり、本を読んだり、他の歯科医師から指導を受けたりといったことで治療をすることができます。
一方でかみ合わせの治療は一部保険診療の対象ですが、全体的な治療は保険診療の対象ではありません。治療を行おうとすれば自費診療になってしまうということです。保険診療中心の歯科医院では行うことが非常に少ないといえるかもしれません。機会が少ないということはそもそもスキルアップの機会もないということです。結果的にかみ合わせを含んだ全体的な根本的な治療ではなく1本の歯に対しての治療を行う流れになります。(あくまで個人的な意見です。)
よくあるご相談として欠けた歯の治療があります。以前欠けた歯にレジンの治療を行ったが何度も欠けてしまうというものです。歯が欠ける原因の一つとして強く力がかかっているというものがあります。レジンは白く治療がすぐ終わるため非常に良い治療ではありますが、強度はあまり高くありません。そのため欠けることがあります。力が正しくかかっている個所ですと色の変化はありますが長期間使用することができます。しかし力が強くかかるとレジンが欠けたり、外れてしまったりします。この場合の治療は歯に力がかかりすぎないようにすることが大切です。しかし全体的なかみ合わせの検査やつめものやかぶせものの作り直し、矯正といったことも今後の治療の可能性として考えられるため、治療費や治療回数はある程度考えなければなりません。これを面倒くさい、治療費をかけたくない、忙しいので治療回数を少なくして欲しいといったご要望が患者さんにある場合、その場しのぎの治療を希望されるため1本の歯の治療のみになってしまいます。結果的に何度も歯が欠けることやレジンが取れることを繰り返してしまい、次第に歯の状態は悪くなります。確かにご自身の希望通り治療回数を少なく、治療費も少ない治療を行ってはいるため短期的にはご満足されているのですが、再治療が必要になっているため時間や費用や手間がかかっています。治療に対するストレスからネガティブな発言を聞くことも多いため根本的な治療をしていた方が良かったのではと思うことも多いです。特に治療を同じ歯科医院でずっと行っていないケースも多く、この場合は数年~数十年にかけて複数の歯科医師がそれぞれ治療を行っているため初めの口腔状態から大きく変わっています。これを短期間で行うというのは非常に難しいと思います。
再治療のいらない毎日は価値のある毎日
歯に関わらず、身体全体の健康は非常にすばらしいものです。身体への不安は人生の中で感じる不安の中でとても大きなものではないでしょうか。当然のことながら口も身体の一部です。すぐに命の危険に関わるケース(口腔がんなど)は少ないですが、長期的に心身に悪影響を与えることもあります。例えばかみ合わせに異常があるケースでは精神的に不安定になることがあります。歯の本数が少ないため好物が食べにくくなってしまうこと、前歯が急に無くなったため人前に出る仕事で困ってしまうこと、楽しみにしていた旅行中に歯が痛くなって楽しめなくなってしまうことなど突然のトラブルは事前の計画的な治療や定期的な検診を行うことでリスクを減らすことができます。何かおかしいな、少し気になるな、といった軽い違和感の段階で歯科医院で診察を受けることをおすすめします。
治療を野球に例えたら
歯科治療についての研究は世界中で行われています。論文や学会での発表など様々な情報は今はネットですぐに共有される良い時代になりました。ある程度の国や地域であれば良い治療は共有化されているので治療法に差がありません。例えばアメリカで良いとされている根管治療の方法はアメリカまで行かなくても日本で受けることができます。そして治療法は研究された段階では一つの良いと思われる治療法に過ぎません。それが日本に伝わった時に「保険診療対象」「保険診療対象外」というカテゴリに分けられるわけです。そのため日本で行える歯科治療は仮に100あったとしてそのうち30が保険対象、70が自費診療ということになります。歯に対して良いと考えられている治療法を行おうとしたときに、この30に入っていなければ保険診療では行えないというジレンマを抱えながら歯科医師は治療をしているのではと思っています。これは野球に例えた場合、現在絶好調の大谷選手を相手チームのピッチャーの立場で考えるとわかりやすいかもしれません。
大谷選手を抑えようと思ったら事前の研究が必要でしょう。そして得意なコース、苦手なコース、得意な球種、苦手な球種、結果を残している状況などを考えた上でピッチャーは勝負するのだと思います。勝負しないことを選択することもあるかもしれません。それを直球だけで挑んだり、無策で挑んでも恐らく打ち取ることはできないのではないでしょうか。
歯科も同様です。「保険診療のみ」「悪い状態の歯を抜かない」「歯が無い箇所に何も治療しない」といった制限を付けた状態で口の状態を改善するという結果に立ち向かうのは非常に困難です。監督の支持で直球しか投げてはいけないピッチャーは何とか頑張ろうとするでしょうがホームランを打たれてしまうかもしれません。患者さんからの制限がある状態で治療に一生懸命に臨んで短期的に良い結果を残せてもいずれ再発したり抜歯になってしまったりするでしょう。出来ることなら自分の使える手段を全て使うことのできる治療をしたいと思っていますし、患者さんにもその許可を頂きたいと思っています。大谷選手の試合を見た時の手に汗握る瞬間というのは実は歯科にもあると私は個人的に思っています。
コンビニより多い歯科医院を選ぶために
昔から歯科医院はコンビニより多いと言われています。今後団塊の世代の歯科医師の引退が多く控えているのでかなり軒数は減っていくのですが、それでも歯科医院を選ぶのは少し難しいかもしれません。最初に考えていただきたいのは、「歯をしっかりと治したいのか」ということです。歯に対する興味のない方の治療は非常に困難です。治療のキャンセルや変更、治療中断といった歯科医院外の要素も非常に重要となります。もしよい治療をしたいと考えるならしっかりと候補の歯科医院のホームページを読み込んでください。大なり小なり歯科医院の方針や思いが書かれていると思います。そして歯科医院に行ったら歯科医師とどのような治療法が良いかよく相談してください。ご自身の希望がある場合はそれも伝えてどんなメリットやデメリットがあるか聞いてください。デメリットが多い場合は柔軟に治療計画について考えてみてください。本当に虫歯のおやしらずを抜かないでいいのか、本当に状態の悪い前歯をいずれ抜歯前提で治療していいのか、よく考えた上で担当歯科医師と意見が合わなかったり考えが違う場合は他院でまた相談することも考えてみてください。ステーキ屋さんに行ったらステーキお寿司屋さんに行ったらお寿司を注文するでしょう。行ってから「なんでもいいから料理出して」なんてことは歓迎されないでしょう。料理と違って治療はよりわかりにくいものです、是非ご相談しながらご自身の本当に臨んでいる治療が何か見つけながら歯の健康、口の健康、身体の健康を保っていただければと思います。