歯のコラム
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抜歯を避けるために
2023.12.08
細菌のコントロールと力のコントロールが重要
すっかり寒くなってきて年末の雰囲気になってきましたね。年末年始の当院は繁忙期で例年とても混雑します。正月休みまでに治療を終えたい方もとても多いです。一方で治療が継続している状態で正月休みに入りたくないという方も多いです。銀歯がまだ入らず仮の材料が入っているとか、神経の治療中で歯が大きく削られているとか、治療途中になるのだったら正月休み明けから治療をスタートしたいという方が例年いらっしゃいます。しかし、その希望が叶わず、痛みが出てしまったり、つめものやかぶせものが外れてしまったりと思わぬトラブルで治療がスタートすることも多いです。
特に治療を延期したいという内容の第一位は『抜歯』です。歯が無い状態でお正月を迎えたくないという気持ちもよくわかるのですが、抜歯をしなければならない状態で多くの歯科医院が休んでいる正月休みを迎えるというのも少し怖い気もします。当然のことながら多くの患者様は抜歯を望んでいませんし、歯科医師も不要な抜歯はしたくありません。残念ながら抜歯は多く行われている治療です。
現在の75歳の平均残存歯数は15本です。元々28本歯があります。親しらずを入れると更に4本あります。ここから15本まで歯が減ってしまうということは、年齢を経るごとに抜歯をし続けていっていると言っても過言ではありません。抜歯と聞いた時に「虫歯がひどくなってしまったんだろう」と考える方が多いかもしれません。子供の頃に読んだ絵本にあるようなヤリを持った虫歯菌が黒くなった歯にヤリを突き刺しているシーンを思い出すことができるのではないでしょうか。絵本で描かれている黒い大きな穴の開いた歯を抜歯することももちろんあります。しかし実際に多いのは歯周病による抜歯です。歯茎が炎症を起こして腫れてしまい、出血している。歯周病の方からよくする臭いもあり、指で触ると少し動いている。そんな歯の抜歯が多いです。歯周病は細菌感染による慢性的な炎症なのですが、当人はあまり痛くないということが多いです。これには理由があって、歯周病の原因細菌は神経細胞が痛みを伝達するための経路を切断する酪酸を分泌するためです。こんなに炎症が起きていて出血もあるのにどうして痛くないんだろうと不思議になるような症状でも、当の本人は全く気にしていないということも多いのが歯周病です。状態が悪化してしまうと自然に歯が抜けてしまいますし、いざ抜歯するとなった時も特に器具も必要なく指でつまんだら抜けてしまうというようなこともあります。痛くないということもありますし、腫れていたり出血があるのも日常茶飯事ですと抜歯の必要性も感じないためどんどんと悪化してしまうわけですね。それでも歯が無くなってしまうという段階になるとどうにか歯を残せないかというご希望をおっしゃることも多いです。残念ながら悪化した歯周病を治す方法はありません。
もし絶対に抜歯をしたくないというお気持ちがあるのであれば、定期的に歯科医院で歯周病の検査を受け、クリーニングを受け、場合によっては治療を受け、日々のセルフケアをしっかりと行うということが必要です。ですが、状態があまり悪くないと歯科医師や歯科衛生士からの指導やアドバイスも耳に入らないため、やはり悪化してしまい抜歯になるというジレンマも日々感じています。また、歯周病と糖尿病の関連は昔から言われている通り、もし糖尿病であれば糖尿病のコントロールをしっかりと行うということも必要です。
どんな時に抜歯になるのか
先ほど真っ黒な穴の開いた歯の抜歯はあまり多くないというお話をしました。では歯周病以外で抜歯をする場合はどんなことが多いでしょうか?実は神経を抜いて銀歯のかぶせものをしている歯の根にヒビが入ってしまったり、折れてしまったということが原因の抜歯が多いです。今年もこのケースで多くの歯の抜歯をしました。これは色々なことが原因としてあるのですが、力のコントロールがうまくできていないということがあります。「銀歯を入れたら少し噛みにくかったけど慣れた」という方は少し気を付けた方が良いかもしれません。
元々、歯並びは人それぞれ違います。正しいかみあわせの方もいますし、矯正が必要な方もいます。かみあわせが正常でないということは特定の歯に力が必要以上にかかってしまっているということです。人間の噛む力は非常に強いため、歯が負けてしまいヒビが入ったり折れたりしてしまいます。その為矯正が必要なのですが矯正は原則自由診療で数十万円から数百万円かかりますので治療に踏み切れない方も多いです。自分は子供の頃に歯並びが綺麗だと褒められたという方も多いのではないでしょうか。しかし大人になるにつれ虫歯の治療を繰り返しているうちにいくつかのつめものやかぶせものが増えていき、その度に少しずつ咬み合わせが変わっていきます。右の歯に力が掛かり過ぎたので治療をした結果左の歯に力が掛かってしまい今度は左の歯の治療をする、と言ったケースや、奥歯が虫歯で無くなってしまったが放置してしまったために前歯が強く当たるようになってしまい前歯が傾いてきてしまったというケースも今年何件もありました。
保険診療のメリットとデメリット
日本の保険診療はすぐに安く治療が出来るということが非常に素晴らしいシステムです。歯が痛くてもお金を貯めてからでないと治療が出来ないといったこともなく、すぐに機能を回復させることができ、食事もすぐに摂れるようになります。痛い状態が長く続くこともありません。しかしながら、保険診療は予算がある治療のため使える材料に制限があります。セラミックやゴールドの様に性能の良い素材を使うことができません。また、かみ合わせの診断のような技術や経験、機材が必要な治療に対して診療報酬が設定されていません。歯の模型を製作し、かみ合わせを診断する器具につけ、理想的なかみ合わせはどのような状態なのか診断することは時間も経験も必要な治療です。しかしいくら診査診断を行ったとしても保険診療ではゼロ円です。ですので大きく咬み合わせに異常が出てしまった場合は矯正歯科医院への紹介をすることはありますが、小さい咬み合わせの異常まで治療するということが現実的には難しいと言えます。その結果、治療を繰り返していく中で咬み合わせに異常が出てしまい、連鎖的に歯を失ってしまうということになってしまいます。特に神経を抜いた歯は歯の根の内部を削っていることもありますし、内部に芯を入れていることもあります。また大きく歯を削っていて元々の歯があまり残っていないこともあります。そのため力が掛かると歯にヒビが入ってしまったり、折れてしまったりすることが多いです。
再根管治療とは
歯の神経を抜く治療を根管治療といいます。そして治療後しばらく経ってからその歯の内部に炎症が起きてしまうことを再根管治療といいます。この再根管治療が起きてしまう原因は簡単に言うと2つあります。1つは保険診療のかぶせものが原因のもの。もう一つは初回神経を抜いた時の治療に不備があったことが原因のものです。神経の治療も保険診療では報酬が低いため使える器具に限界があります。ですが、初回の神経を抜く治療でしっかりと治療を行い、セラミックやゴールドといった性能の良い素材で治療を行うことで再発リスクを低くすることができます。では再発が起きた場合どうなるのでしょうか。歯の根の周辺の骨が溶けてしまい、歯を支えられなくなってしまうため歯が揺れてきます。こうなると抜歯しか治療法がありません。炎症が起きている状態が続くと隣の歯にも影響が出てしまいます。その為神経の治療は初回からしっかりと行う必要があります。
様々な抜歯リスクを避けるために
抜歯という診断が出てしまえば、避けることはできません。いつ抜くかの決心の問題になってしまいます。ですのでできるだけ抜歯を避ける為にはその前にどれだけ予防できるかということが肝心です。まず、定期的な歯科医院での検診をうけることをおすすめいたします。定期的に通っていれば何か異常が起きても早期発見しやすいです。もちろんのことですが歯周病予防には定期検診がかかせません。もし、今自分の口の中に銀歯のつめものやかぶせものが入っていたら異常があるものや異常が起きそうなものから良い素材の物にやり替えをすることも大切です。その際にかみ合わせに異常が無いかの咬合診査をすることも大事です。また、虫歯も原因細菌のコントロールが非常に重要ですので予防歯科の検査を受けることも検討してはいかがでしょうか?
抜歯をしたくないと思ったら一度ご相談ください。歯科医師や歯科衛生士があなたにあった一番良い予防法についてご相談させていただきます。