歯のコラム
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全身の病気と歯周病が関係あるってほんと?
2023.08.30
ギネスブックにも載っている歯周病
ギネスブックに歯周病は最も感染者の多い感染症ということで掲載されているそうです。全世界の人々が歯周病に悩まされているなんてとても大きな話だと思いませんか?
また、抜歯の原因は虫歯だと思っている方も多いかもしれません。実はこれも歯周病が1位です。
歯科医院で働いているとご自身が歯周病だということに気づかないまま生活している方がとても多いと感じます。虫歯や親知らずの症状で来院され、自覚症状のない歯周病についてお伝えするととても驚く方が少なくありません。「歯石がついていると思っていたけど歯周病だとは思わなかった」「たまに歯磨きをしたときに出血することがあるが歯ブラシを強く当てすぎたからだと思っていた」などなど自分がまさか歯周病だなんてと信じられないようで、歯周病の検査結果をお伝えしてやっと納得していただける方、やっぱり信じられなくて治療をしない方いろいろいらっしゃいます。治療をされない方でも数ヶ月後、数年後やっぱり症状が出て来院されるのですが、抜歯になってしまう方も多く、あの時どうにかして歯周病だということを理解してもらう方法はなかったかと思い返すこともあります。
口臭が気になったら歯周病かも
歯周病かもしれないと思って来院される方のお話を聞くと「口臭がある」という理由も多いです。確かに歯周病の症状として口臭というものもありますし、うちの医院が全室個室ということもあるのでわかりやすいのですが、診察室に患者さんが入ってきてしばらくすると口臭が部屋中に漂ってしまうくらいの方もいます。歯科医師も歯科衛生士も慣れているので特に気にならないのですが、ご家族、ご友人、仕事仲間の方はデリケートな問題なので気づいていても本人に伝えられないままになっているのかもしれないなと想像したりもします。
なぜ歯周病は気づきにくいのか
歯周病の重度の方がいるとします。歯肉は腫れ、至る所から出血があり、歯は部分的に揺れている症状があるとしましょう。どうして本人は気づかないんだろうと疑問になりませんか?出血があるのだから痛いんじゃないか?と思うかもしれません。ところがご本人に聞いてみると「痛くないのに歯周病なんですか?本当に?」という方が多いのです。歯周病は痛くないこともよくあります。
歯周病の原因は細菌によるものです。歯周病の原因細菌は口の中で酪酸を生成します。酪酸は神経細胞のシナプスを切断する作用があります。歯肉から痛いというシグナルが脳まで伝わってはじめて痛みを感じるのですが、途中で神経が切断されていたら痛みのシグナルが脳まで伝わりません。足や腰が痛い方が神経ブロック注射を打つと痛みがなくなり動けるようになるというお話を聞いたことがあると思います。これも痛みの原因の箇所から脳まで痛みのシグナルが伝わらないため痛みを感じないのですが、歯周病も同様の理由で痛みを感じにくくなっています。歯肉は腫れ上がり出血しているのに気づかないままになってしまうわけです。そしてその炎症している歯肉から栄養を摂り歯周病の原因の細菌は増殖していきます。歯周病の原因の細菌は炎症性物質と言われる様々な物質を生成します。この物質は血液の流れに乗って全身に運ばれていきます。
そのため様々な臓器に悪影響を起こしているということが研究から明らかになってきました。もっとも有名なものですと「糖尿病」があります。歯周病の患者の中に糖尿病も併発している人が多いのですが、逆に糖尿病の患者が歯周病を発症することも多いです。歯周病による炎症性物質がインスリンの働きを低下させてしまうということが原因の一つです。糖尿病は失明になったり人工透析が必要になったり足の血管や神経の障害を引き起こしてしまったりと非常に重い症状が出ることがあります。(スタッフの親族は足の切断をしなくてはならなくなってしまったそうです)
歯周病と誤嚥性肺炎
歯周病の感染者数がもっとも多い感染症ということはご説明したのですが、感染症といえばコロナウイルスをイメージされる方も多いのではと思います。コロナウイルスに感染しても症状が出ない人と、高熱や咳など強い症状が出る人がいることは皆さんご存知かと思います。免疫によって身体は守られているので必ずしも強い症状が出るということではないわけです。
誤嚥性肺炎は体の中にいる常在菌によって起こる病気です。芸能人、スポーツ選手、政治家、経営者、など有名人の訃報で「肺炎で亡くなりました」という記事を見た記憶があるのではないでしょうか。色々な病気で身体の免疫力が落ちてくると、今まで身体の中で何も悪さをしていなかった細菌が身体に悪影響を及ぼしてきます。なんらかの拍子に誤嚥が起き、肺に細菌が入り、炎症を起こして死に至ります。肺炎は高熱が出ますし、咳も出るためとても苦しい症状と言えます。入院患者の口腔内の状態は悪くなってしまうことが多いです。そのため歯科医師や歯科衛生士による口腔内のクリーニングを行うことが大切です。歯周病は口の中にプラークが多いので様々な細菌の数も増加しています。そのため誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが増加します。プロによるクリーニングをうけることでリスクを減らすことが研究結果からわかっています。そのため、人生の最期を穏やかに迎えるためにはできるだけ歯周病を治しておく方が良いですよと伝えています。
歯周病とさまざまな病気
歯周病についての研究は常に行われていますので新しい研究結果も報告されています。
次に挙げるものも歯周病と関連があると言われています。
認知症 脳血管障害 肥満 糖尿病 動脈硬化 高血圧 誤嚥性肺 炎 非アルコール性脂肪肝炎 心臓疾患 妊娠トラブル 腸内細菌 フローラ 骨粗鬆症 皮膚疾患 バージャー病 インフルエンザ HIV EBウイルス(ヘルペス)
非常に多くのに病気と関連があることに驚かれたのではないでしょうか。今後も研究によって明らかになってくると思います。
歯周病はどこが病気になるの?
歯周病はその名の通り歯の周囲の病気です。歯周ポケットという言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。歯と歯肉の間の隙間の炎症のことなのですが、この隙間の広さはどれくらいあるでしょう?実は全ての歯を合わせると手のひらくらいの面積があります。思ったより広いと思いませんか。この面積が炎症を起こし、そこから炎症性物質という身体に悪影響を及ぼす物質が常に生成されて全身に流れていると考えると非常に怖く感じるのではと思います。
日々診療をしていると「口臭を感じたことがないので別に気にしません」「たまに出血しても死ぬわけじゃないし」「歯磨きも定期検診も忙しいから仕方ないです」と言われてしまうこともよくあります。それを言っちゃあおしまいよと思うのですが、縁があって来院されたのですから「歯の問題だけじゃなくて、身体の問題でもあるのですよ」とか「長生きしたくないんですか?」とか「最後穏やかにコロっと死ぬのは良いと思いませんか?」とか色々工夫しながら説得しています。
近年医科と歯科が連携した研究が多くあり、歯科の分野からも全身の疾患についてアプローチすることが多くなりました。歯周病にタバコが良くないので禁煙してくださいねというお話を以前はよくしていましたし、今もたまにしています。しかし喫煙率が非常に低下したので以前よりはそういった機会も少なくなりました。歯科からの働きかけもある程度効果があったのではとも思います。現在では全身疾患に対して歯科がどうアプローチできるのか、健康に老後を過ごすためにどう関わったら良いのかという機会が増えたように思います。もしそういったことに興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。
当院では歯科医師も歯科衛生士もその他スタッフも力をいれて取り組んでいるのでご説明させていただきます。8020運動、オーラルフレイル、といったことについてはまた別の機会にご説明したいと思いますが、これらも歯科から取り組める全身の健康についてのキーワードです。口の健康を保ち、身体の健康も保てるよう一生一緒に取り組んでいきましょう。