歯のコラム
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健康に寿命を迎えるために
2023.06.28
医院の目標として「天寿を全うすることができるようなお手伝いをする」というものがあります。もう少し具体的に言いますと、「介護を受けずに済むように心身ともに健康に過ごせるよう歯科分野から取り組む」ということになります。
健康を保つには病院に行くのでは?と思う方もいるかもしれません。現在では医科と歯科が連携して取り組んでいることも多いのでご説明いたします。
健康寿命と平均寿命とは
2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。
一方健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳です。
男性は8.73年、女性は12.06歳の差があります。
この差の期間は日常生活に制限がある不健康な期間となり寝たきりや認知症、歩くことが不自由だったり自分で身の回りのことをすることが難しい状態となります。そう考えると少し長い期間に感じるのではないでしょうか?
訪問歯科で出来ること
高齢化社会が進むにつれて訪問歯科の需要が高まり、様々なところで目にしたり耳にすることも増えたのではないでしょうか?歯科のセミナーでも訪問歯科についてのセミナーは非常に増えてきています。介護施設や老人ホーム、居宅に伺い歯科治療を行うというものです。歯科医院は移動式の治療ユニット(歯を削ったり唾液を吸ったりする歯科医院内における診療チェアのようなもの)を車に積み込み事前にご要望があった場所に伺うというものです。当然のことながら歯科医院の設備とは違いますので治療のクオリティや内容は違います。
訪問歯科はこれからどんどんと増えていきますので歯科医院向けのセミナー、資料、コラムなどが沢山あるのですが、有名な先生がおっしゃっていたことにとても印象的な言葉がありました。「若いうちに歯を治し【貯金】しておかないと老後足りなくなってしまう」という言葉です。もちろん現金の話ではありません。口の機能のことを貯金に例えているのです。訪問歯科で行えることは限定的です。また元気な頃と違い長時間じっとして治療を受けることができないことも多いです。
つまりしっかりと治せない可能性が若い頃より高くなってくるということになります。硬いものを食べることが好きだった方は食べられなくなりますし、硬くないものを食べるとしても飲み込む機能が低下しているのでむせやすくなります。食べ物が器官に入ることが原因で起こる病気でとても有名なものがあります。ご存じの方も多いかと思います。誤嚥性肺炎です。様々な病気で身体が弱ってくると最終的な死因が誤嚥性肺炎になる方も多い病気です。これは熱も咳も出ますのでとても苦しい病気と言われています。
歯が無いことで高まるリスクとは
興味深い調査データに転倒リスクについてのものがあります。
20本以上歯がある人 1.0
19本以下の歯がある人 義歯使用 1.36
19本以下の歯がある人 義歯未使用 2.5
となります。簡単に言うと歯がある人に比べて歯が無い人で治療もしていない人は2.5倍の転倒リスクがあるということです。若い頃の転倒は擦り傷や打ち身で済むことが多いですが高齢者の転倒の場合、命にかかわることもありますし、頭を打ったことによる脳へのダメージ、骨折によって歩行が困難になったり寝たきりになったりということもあります。
要介護認定との関係
また別の興味深いデータがあります。要介護認定と歯の本数の関係についてです。
20本以上歯がある人 1.0
19本以下の歯がある人 1.21
歯が少ない人は歯が多い人に比べて1.21倍要介護認定になりやすいということです。非常に興味深いデータではないでしょうか。
8020運動とは
8020運動という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?80歳になった時に自分の歯を20本残しましょうという努力目標です。なぜ20本かというと20本歯があると満足して食事を摂れると言われているためです。現在では50%以上の80歳の方が20本以上自分の歯があるという調査結果が出ています。
オーラルフレイルとは
オーラルフレイルは8020運動よりも新しい考え方ですので聞いたことが無い方も多いかもしれません。しかし考え方としては似ている部分も多いです。
フレイル=全身の衰え=要介護の前段階の状態
オーラルフレイル=口の機能の衰え
ということになるのですが、まずオーラルフレイルの状態になります。その後全身に影響が表れ、要介護状態へ移行していきます。
オーラルフレイル→フレイル→要介護状態
オーラルフレイルの状態にアプローチすることで全身の衰えを防ぐという考え方です。
詳しくはまた別のコラムでご紹介いたします。
天寿を全うするために歯科が出来ることは
厚労省のデータでは令和元年の死因の上位は以下の通りです。
- 1.がん
- 2.心疾患
- 3.老衰
- 4.脳血管疾患
- 5.肺炎
- 6.誤嚥性肺炎
- 7.事故
- 8.腎不全
となっています。
健康診断を受けたり、人間ドックや脳ドックを受けている人も多いのではないでしょうか。現在の研究ではがんや心疾患といった全身疾患にも口の中の細菌が悪い影響を与えていると言われています。これらについてもまた別のコラムでお伝えしたいと思いますが口腔状態は良いに越したことはなく、悪ければ全身へ悪影響を与えると覚えておいていただければと思います。
医科の分野でも日々色々な研究がされていて今まで治らなかった病気が治るようになったり、予防できるようになってきています。その中に歯科の分野も含まれていると考えていただけるとわかりやすいと思います。身体が健康だが歯の本数が20本以下。これを健康と満足するのではなく歯科についても健康な状態にしていくことで「病気ではない行動に制限のない状態のまま寿命を迎える」ことができると考えています。
具体的な治療内容
まず、予防歯科の検査を受けましょう。我々が導入している予防歯科のプログラムはアメリカで多く取り入れられている「CAMBRA」というものです。唾液の量、唾液に含まれる細菌の種類、最近の活動量、全ての歯の詳細なレントゲン、生活習慣、治療歴、持病、などを元に虫歯になりやすいかどうかのリスクを4段階で判定します。この検査結果によって日々自身で行うセルフケアの内容が変わります。
「定期的に歯科検診をしているのに虫歯になってしまう」という声は良く聞きます。もしとてもリスクが高い状態であった場合は定期的な歯科検診を受けていても虫歯は出来てしまいます。現時点での口腔内の状態の確認は非常に大切なことです。
次にリスクに応じたセルフケアのプログラムを作成します。歯みがきやうがい薬などの見直しが必要なことがとても多いです。
そしてセルフケアがしっかりと行われているか確認していきます。リスクに応じて再検査も行い数値の確認をしていきます。特にカリスクリーンという細菌の活動量を15秒で測定する検査があり、これは個人的には非常に面白い検査だと思っています。0~9999の間の数値で表示されますが初めは9000だった方が再検査ごとに7000、5000、と下がっていき最終的に3桁まで落ちてくるのは努力に対する結果がしっかりと反映されモチベーションにも繋がります。ご本人も担当歯科衛生士も非常に盛り上がる検査です。
予防歯科の結果が出てくると新たに虫歯になるリスクは下がってくるのですが、ゼロではありません。次に取り掛かることは削らなくてはいけない虫歯の治療や、既に治療済みの歯の再治療です。特に銀歯のつめものやかぶせもの、ブリッジが入っている場合はデータ上長持ちするものではありませんので、セラミックやゴールドの素材の物に作り替えていきます。ブリッジの場合はインプラントも視野にいれた計画を立てることもあります。
神経を抜いてある歯については以前の治療に問題がなかったか、現在炎症が起きていないかなどを確認し、場合によっては再治療を行います。
もし、かみ合わせに問題がある場合は矯正歯科医院と連携して矯正を行っていきます。矯正治療は長期的に行うものですが、矯正治療中は虫歯になりやすいというデメリットがありますのでそういったリスク軽減のためにもCAMBRAを行った方が安全に治療を続けていくことができます。
歯周病についても検査を行い必要があれば治療を行います。歯周病については定期的な歯科検診、クリーニング、PMTCなどが非常に有効ですので継続して行います。
全ての治療が終わったら
虫歯、歯周病、かみ合わせ、予防歯科、一通りの治療が終わったら、良い状態を維持するために定期的に診察を受けていただくことになります。初めの頃はリスクが高いこともありますが、継続していくことでリスクは低くなっていきます。
簡単にご説明するとこのような流れになりますが、実際には個人ごとの状態も違いますので治療計画もオーダーメイドです。また費用もかかることがありますので治療計画を立てて長期的かつ計画的に進めていきます。ご興味がございましたらお気軽にご連絡下さい。一緒に健康な老後を過ごせるように頑張っていきましょう。