歯のコラム
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自分の歯をどれだけ残すことができるか
2023.06.07
日本人の歯が残っている本数は?
私が子供の頃は地域の高齢者に遊んでもらうことも多かったのですが、入れ歯の高齢者がとても多かった記憶があります。総入れ歯や本数の多い部分入れ歯で、取り外しをするところをわざわざ見せてくれて笑わせてくれたことを覚えています。前歯を金歯にすることもステータスだったようで笑顔の時にピカピカのゴールドの前歯が見たことも印象的でした。
厚労省のホームページには歯についての調査結果が沢山あるのですが、2005年無歯顎者(歯の無い方)の日本人と様々な国の人比較したデータがあります。
65歳以上のデータ
エジプト | 7% |
スロベニア | 16% |
タイ | 16% |
日本 | 18% |
シンガポール | 21% |
インドネシア | 24% |
サウジアラビア | 31-46% |
フィンランド | 41% |
英国 | 46% |
ブルガリア | 53% |
マレーシア | 57% |
カナダ | 58% |
アルバニア | 69% |
アイスランド | 72% |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 78% |
どうだったでしょうか?他国に比べると少ないと感じた方もいるかもしれません。ですが職場の仲間の18%が無歯顎になると考えたらとても多く感じるかもしれません。事故等特殊な事情がなければ一度にたくさんの歯を失うことはあまりなく、少しずつ歯を失っていきます。
ブリッジと部分入れ歯と総入れ歯
厚生労働省「2016年歯科疾患実態調査」によると、ブリッジの装着者の割合は
年齢 | 割合 |
20〜24 | 1.4% |
25〜29 | 4.7% |
30〜34 | 2.9% |
35〜39 | 10.0% |
40〜44 | 16.1% |
45〜49 | 20.3% |
50〜54 | 34.4% |
55〜59 | 46.9% |
60〜64 | 46.7% |
65〜59 | 50.9% |
70〜74 | 47.9% |
75〜79 | 45.5% |
80〜84 | 45.1% |
85〜 | 36.8% |
となります。徐々にブリッジのある人の割合は増えています。
ブリッジの利点として入れ歯の様に取り外しをしなくて良いということがあります。
抜歯しても今までと同じような噛みごこちで同じようなセルフケアを行うことができるのでとても人気です。
一方でブリッジの土台の歯が悪くなるという特徴もあり、土台の歯が抜歯になった場合はさらに長いブリッジになってしまいます。部位によってはブリッジを作ることができないこともあります。
例えば右下の奥歯を抜歯する場合、その前に神経を抜く処置を行っていますし再治療を行っていることも多いでしょう。さらに前は銀歯のつめものを入れていると思いますが、これも何度か作り直したり付け直したりしているかもしれません。その前は保険のレジン治療を行っているでしょう。多くの場合、同じ歯について何度も治療をしており、数年後結果的に抜歯になっています。
健康な状態から虫歯になり、レジン修復したにも関わらずまた虫歯になってしまうということはよくあることではありますが、一つは歯みがきの方法にむらがあるということは言えるかもしれません。右下の歯をきれいに磨くことが出来ない癖のある状態ということです。
レジン→銀歯のつめもの→銀歯のかぶせもの→抜歯→ブリッジ→ブリッジの土台が抜歯→部分入れ歯
という流れになっているということですね。
結果的に歯を失うことになるのですが、それまでの間に何度治療をしても虫歯をつくらないために歯みがきの方法を変えたり、生活習慣を変えたり、つめものやかぶせものの素材を変えたりといった行動を変化することが非常に難しいということが言えるのではないでしょうか。
70歳を過ぎると40%ぐらいの割合で部分入れ歯を使っている人がいます。
全部総義歯(上か下どちらかの歯が全て無い場合に使う入れ歯 いわゆる総入れ歯)の割合も15%~45%と増えていくため、口の中にブリッジと入れ歯が混在している状態となります。
一番奥の歯を土台にしたブリッジの場合、一番奥の土台の歯に異常がおきて抜歯することになると再びブリッジを作ることができないため入れ歯になります。この段階で入れ歯になれることが出来ず、入れ歯をいれないままにする方もいますが隣の歯が倒れてしまったり噛み合う反対側の歯が伸びて来てしまったりと異常が起きてしまいます。治そうとすると矯正が必要となるのですが費用も時間もかかるため抜歯を選ばざるを得ないこともあります。
虫歯や歯周病による抜歯はイメージが付きやすいのですが、保険診療の素材を使ったブリッジが原因の抜歯や、抜歯後治療をしないことによる抜歯などもあり、結果的に歯の本数が少なくなってしまいます。
ブリッジは短期間に手軽にできる治療ですが、治療が終わって落ち着いたらその後どのようにしていくか計画的に考えていくことが必要だと思います。
8020運動とオーラルフレイル
8020運動という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。80歳になった時に20本以上の歯を残そうという健康の努力目標です。かつては高齢者の残っている歯の本数は非常に少なく、上下総入れ歯という方も多かったです。みなさんが子供の頃に見かけた記憶もあるのではないでしょうか。
平成28年歯科疾患実態調査では80歳になっても歯が20本以上ある方の割合が51.2%と調査が開始されてから初めて50%を越えました。虫歯で歯を失う人も減り、歯周病で歯を失うことの方が多くなりました。長年の努力の結果が実ったといえます。
なぜ20本残った方が良いかということに疑問をお持ちの方もいるかもしれません。20本あれば食品の咀嚼が容易とされているため設定されている数字です。
8020運動は活動を始めて次第に結果が出ていていたのですが、また別の研究も進んできました。フレイルとオーラルフレイルという考え方です。
フレイル=心身の衰え
オーラルフレイル=口腔機能の衰え
といった意味になります。
病気で臓器を摘出した場合、身体が衰えてしまうということはイメージがしやすいかと思います。胃が半分なので今までより食べられなくなった、人工透析しているので食事の制限がある、ということを聞いたことはあると思います。
一方で口の機能についてはあまり大事に考えにくいかもしれません。しかし歯やあごや舌は当然の事ながら身体の一部です。すぐ命の危険につながるようなことはありませんが、長期的に身体を蝕んでいきます。
口腔機能が身体に影響を与えているというデータは古くから言われていました。(糖尿病と歯周病に関連があるというのは有名ではないでしょうか。)実際現場でも患者さんの口腔状態と見た目や話した感じや身体の動かし方などで衰えを感じることがありました。近年オーラルフレイルという言葉を広める運動が活発になり、歯科の分野においては口腔機能低下症として患者さんにお伝えすることが多くなってきました。
天寿を全うするために
私たちの医院では「天寿を全うする」ということを目標に治療を行っています。辞書によって解釈は多少違いますが「天寿を全うする」=【長生きして死ぬ・病気やケガではなく自然死する】といった意味があります。当然のことながら口腔領域以外の病気は歯科医師では関与できません。ですが歯科医院で出来る健康を保つための方法も沢山あります。聞いたことがあることもきいたことがないこともあるかもしれませんが、少しご紹介します。
- ・すい臓がん
- ・糖尿病
- ・早産 低体重出産
- ・骨粗鬆症
- ・掌蹠膿疱症
- ・バージャー病
- ・腎炎
- ・関節リウマチ
- ・脳梗塞
- ・認知症
- ・アルツハイマー病
- ・心筋梗塞
- ・狭心症
- ・心内膜炎
- ・アトピー性皮膚炎
- ・緑内障
- ・副鼻腔炎
- ・動脈硬化
- ・敗血症
- ・サルコペニア
- ・誤嚥性肺炎
- ・気管支喘息
- ・精神疾患
- ・食道がん
- ・胃潰瘍
- ・胆のう炎
- ・頸肩腕障害
- ・大腸がん
- ・クローン病
- ・虫垂炎
- ・非アルコール性脂肪性肝炎
- ・肥満
- ・リンパ節炎
- ・抜け毛、薄毛
- ・味覚障害
など多種多様な病気と関連があると考えられています。
詳しくはまた別のコラムでご説明いたします。
オーラルフレイルにならないために
単純に言えば、歯の本数が少なくなることで口腔機能が低下し、次第に心と体が衰え、要介護状態になるリスクが増え、病気で最期を迎えるということになるのですが、これらは虫歯や歯周病といった細菌が原因であったり、かみ合わせや歯並びといった生まれつき原因があるケースなど様々です。
一生の間に内科や外科、眼科、皮膚科、耳鼻科にかからないという人はほとんどいないのではないでしょうか。社会保険の方は年に1回の健康診断が義務付けられていますし、地方自治体の健康診断もあります。ある程度の年齢になれば人間ドックや脳ドックに行く方も多いでしょう。
健康の維持には定期的な検査と日々のケア、異常があれば早期に治療することが大切です。同様に歯科部門においても定期的な検査、日々のケア、根本的な治療が非常に大切です。天寿を全うしたいというご希望があれば一緒に頑張っていきたいと思っています。ご希望がございましたらお気軽にお問い合わせください。