歯のコラム
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抜髄とは
2023.07.12
神経を抜く治療~抜髄~
歯が痛くなったから神経を抜くというということはよくあります。ご家族ご友人の話でも良く聞くのではないでしょうか。歯は一番外側の硬い部分であるエナメル質、その内側にあるやや柔らかい象牙質、その更に歯髄という神経が通っている期間があります。
歯髄を抜く、つまり抜髄ということになります。診察中歯科医師とスタッフの会話で「抜髄の準備してください」といったことを聞いたことがあるかもしれませんね。歯髄が虫歯の細菌などによって炎症を起こしている状態を歯髄炎といいます。
歯髄炎になってしまうと抜髄しなければなりません。仮に痛みを我慢したり、長期間痛み止めを飲んだりすると痛みが無くなってきます。治ったと思うかもしれませんが、ある程度進んでしまった歯の神経は勝手に悪くなることはありますが、勝手に良くなることはありません。神経が死んだために痛みを感じなくなっただけなのです。
抜髄する時に大切なこと
抜髄は歯の神経を抜く治療ということはお話ししたと思います。簡単に言えば「神経を取り残さないようにする」「取り除いた歯の根の管(根管)の内部に細菌を入れないようにする」ということです。これらにはいくつかの器具や機材が必要になってきます。
歯科用顕微鏡~マイクロスコープとは~
小学生の頃、理科の授業で草花や微生物など色々なものを大きく拡大して観察した記憶がある方も多いのではないでしょうか?拡大された生物や組織を見てとても感動したものです。歯の根というのはとても小さい管が通っています。
また歯の根の先から骨に神経が繋がっていますので曲がっていることもあります。歯の根の数だけ管は枝分かれしています。根管の奥までしっかり確認するためにマイクロスコープが有効です。写真撮影や動画録画機能があるものも多いので治療後に治療箇所を確認することもできます。
ラバーダム
歯科用のゴムシートのことをラバーダムと言います。口の中にシートを張り、治療する歯だけ出して治療することで口の中の唾液の侵入をふせぎます。唾液の中にはたくさんの細菌が含まれていますので根管内に入ってしまうと炎症を起こすリスクが高まります。
できるだけ細菌を入れないようにするということが非常に大切です。歯科は細菌との戦いとも言えます。
ニッケルチタンファイル
ファイルというのはやすりという意味です。抜髄する時に歯の根の管の中に入っている神経を抜くのですが、歯の根はとても細く曲がっています。形は歯ごとにとても違っていますし、ねじれていたり角度が急になっていたりと難しいケースも多くあります。ファイルはその根管の奥深くまで入れながら根管の形を整えて神経を取り除いていくために使う器具です。
素材も色々ありますが、ニッケルチタン合金から作られているニッケルチタンファイルは非常に優れたファイルです。保険診療で通常使われる一般的な安価なファイルよりも曲がりやすくしなりもあります。その為歯の根の先まで到達しやすく歯の根の中をきれいに清掃しやすく治療に非常に有効的です。
抜髄した歯は性能の良いかぶせものを
神経を抜いた歯の治療において大切なことが2点あります。抜髄や再根管治療をしっかりと行うということと、性能の良いかぶせものを装着するということです。もしかするとかぶせものの治療の方がイメージしやすい方はおおいかもしれません。
保険診療で行う銀歯やチタン、プラスチックでの治療。自由診療で行うセラミックやゴールド、ジルコニアでの治療とあります。やはりセラミックやゴールド、ジルコニアで行う治療の方が再発リスクが低いためおすすめです。
抜髄した歯は再治療出来るのか
虫歯には段階があります。初期の虫歯は基本的に削らず日々のケアや歯科医院でのケアをしっかりと行うことで進行させないようにします。そこから少し進むとエナメル質という一番外側の硬い部分があり、更に内部に象牙質というエナメル質よりやや柔らかい部分があります。
虫歯が小さければ、もしくは強く力がかからない箇所であればレジンという歯科用のプラスチックで治すことができます。虫歯を繰り返したり強く力がかかるような箇所に虫歯が出来てしまうとインレーという詰め物の治療になります。
銀歯、プラスチックといった保険の素材の他に、セラミック、ジルコニア、ゴールドといった自由診療の性能の良い素材もあります。インレーの治療が終わってまた時間が経ち、周辺が虫歯になったり、外れて内部が虫歯になったりすると再治療になりますが、虫歯が奥深く歯髄近くまでに達してしまうと痛みが無くても抜髄になってしまいます。
抜髄した歯は神経が無いわけですので痛みを感じません。異常に気付きにくいため、何かあっても発見が遅れることがあります。抜髄した歯は再治療が出来ないケースもありますのでそうなると抜歯しかありません。つまり抜髄した歯というのは抜歯の一歩手前の段階と言えます。
日本は抜歯が多い?
抜歯の理由は歯周病が多いのですが、その他に抜髄した歯の根の炎症によるものや、歯の根の虫歯があります。80歳で20本以上の歯が残っている人の割合は50%程度です。予防歯科も根付いていないこともあり抜歯が少ない国ではありません。
歯の根は削ると歯の形態を維持できないことがあります。残っている歯が少ないと破折してしまうこともあります。歯の根の炎症の場合は歯の根を支えている周囲の骨が溶けてしまうため力を支えられなくなり抜歯になります。
海外は歯科治療が高額だというお話は患者さんからも良く聞くのですが、根管治療のレベルも高いというお話も聞きます。マイクロスコープ、ラバーダム、ニッケルチタンファイルなどを使っているということも多いかもしれません。(もちろん海外全ての国の治療について聞いて把握しているわけではありませんので知っている範囲でということにはなるのですが。)
保険治療の良い点は費用の安さです。特に根管治療の保険点数は非常に低くなっていますので、歯が痛くても歯科医院に通うことが出来ないというようなことはあまりないのではないかと思います。逆に悪い点を上げるとすると経費がかけられないということです。マイクロスコープは数百万円しますし、ラバーダムを使って治療する場合麻酔が必要なこともあったり付け外しに時間が掛かったりします。ニッケルチタンファイルは保険治療で使うファイルに比べて非常に高額です。材料費、人件費がとてもかかります。また、根管治療のセミナーも開催されていますがセミナー費用も安くはありません。また技術向上のためには数回通う必要があると思います。
このような理由から保険診療内で良い治療を提供したいと思っても費用の問題で行うことができないことはあるかもしれません。
歯を残す最後の砦 根管治療
歯に異常を感じて歯科医院で診察を受けた時、抜歯しかないという診断を受けたらその日すぐ抜歯した方が良いのですが、受け入れられずに持ち帰って考える方も少なくありません。抜歯という現実が目の前に迫った時に初めて大きな問題として考えられるのかもしれません。
しかし、歯の治療はその前に何度も行われてきたはずですし、ある程度抜歯の可能性についても説明を受けていたのではないかと思います。つめもの、かぶせもの、根管治療には精度の高い自由診療と費用の安い保険診療があり、どちらにするか歯科医師から質問された時「とりあえず保険で」と答える方は多いです。
ですが、自分の大切な身体の一部ですから「とりあえず」で治療するのはもったいないように思います。口の健康は全身の健康と関連があります。身体の色々な部分に影響を及ぼしています。臓器の病気でも「とりあえず」な治療をするのでしょうか?命にかかわると思えば「しっかり」とした治療を選ぶのではないかと思います。直接的にすぐに命に係わることはあまりありませんが、歯も自身の寿命と非常に関連がある器官です。
当院では抜髄する場合自由診療で行うことをおすすめしています。歯が痛いというのは歯からのSOSサインです。そして最後のサインでもあります。大切なご自身の歯を大切にしていただきたいと思います。